近年、職場におけるパワーハラスメントは、法規制の強化と社会の意識変化により、より深刻な問題として認識されるようになっています。単なる人間関係の摩擦ではなく、従業員のメンタルヘルスや職場環境、さらには企業の業績にも悪影響を及ぼすため、適切な対策が必要です。本記事では、パワーハラスメントの定義から企業が講じるべき防止策や法的義務について解説します。
1. 職場におけるパワーハラスメントの定義
厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントとは、以下の３つの要素を全て満たすものと定義されています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境を害するもの
業務上の適正な指導や注意はパワーハラスメントには該当しませんが、指導の範囲を超えて人格を否定したり、執拗に叱責したりする行為はパワーハラスメントとみなされる可能性があります（出典: 厚生労働省）。
2. 職場におけるパワーハラスメントの具体例
次にパワーハラスメントの具体的な例を見ていきましょう。パワーハラスメントにはさまざまな形態があり、業種や職場環境によっても異なります。以下に、代表的な６つの類型とその具体例を紹介します。
パワーハラスメントには、主に以下のような６つの類型があります。
- 身体的な攻撃（暴行・傷害）
- 例：部下を殴る、蹴る、物を投げつける
- 精神的な攻撃（脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言）
- 例：公然と人格を否定する発言を繰り返す、大勢の前で大声で叱責する
- 人間関係からの切り離し（隔離・仲間外し・無視）
- 例：意図的に会議や業務連絡から除外する
- 過大な要求（業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制）
- 例：達成不可能なノルマを課し、未達成を理由に叱責する
- 過小な要求（業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる）
- 例：正社員に単純作業ばかりをさせる
- 個の侵害（私的なことに過度に立ち入る）
- 例：従業員のプライベートな情報を第三者に漏らす
（出典: 厚生労働省）
3. パワーハラスメントによる企業の損失
パワーハラスメントは、単なる個人間のトラブルではなく、企業全体にも深刻な影響を与えます。問題が放置されると、職場環境の悪化だけでなく、経営面でもさまざまな損失を招く可能性があります。以下に、パワーハラスメントが企業に及ぼす主な影響を詳しく解説します。
- 従業員の離職増加: パワーハラスメントを受けた従業員は、職場環境に耐えられず退職することが多く、企業の人材流出につながります。
- 生産性の低下: ハラスメントのある職場では、従業員のモチベーションが低下し、業務効率の悪化を引き起こします。
- 採用コストの増加: 退職者が増えることで、新たな人材採用が必要となり、採用や研修にかかるコストが増加します。
- 企業イメージの悪化: ハラスメント問題が公になれば、企業の評判が低下し、顧客や取引先からの信頼を失う可能性があります。
- 法的リスクの増大: パワーハラスメントに対する法規制が強化される中、企業が適切な対策を取らなかった場合、訴訟や行政指導の対象となるリスクが高まります。
このような損失を防ぐためにも、企業はパワーハラスメントの防止策を積極的に講じる必要があります。
4. 事業主に義務付けられた対策
パワーハラスメントによる企業の損失を防ぐためには、事業主が適切な対策を講じることが不可欠です。令和元年6月に公布された改正労働施策総合推進法（パワーハラスメント防止法）により、令和2年6月から大企業、令和4年4月から中小企業にもパワーハラスメント防止措置の義務化が適用されました。
事業主が講じるべき措置として、以下が求められています。
- 企業としての方針の明確化と周知・啓発
- 相談窓口の設置
- 被害者への適切な対応と再発防止策の実施
- ハラスメントを行った者への適切な措置
これらの措置を講じない企業には、指導や勧告、場合によっては企業名の公表といった行政指導が行われる可能性があります（出典: 厚生労働省）。
5. パワーハラスメントを防ぐために企業がすべきこと
事業主に義務付けられた対策を理解した上で、企業が主体的に取り組むべき具体的な防止策を考えていきましょう。単に法的義務を果たすだけではなく、従業員が安心して働ける環境を整備することが求められます。以下に、実践的な対策を紹介します。
5-1. 明確な社内ルールの策定
パワーハラスメントを防ぐためには、企業が独自のガイドラインや行動規範を策定し、従業員に周知することが重要です。特に、ハラスメント行為の具体例を挙げながら、禁止事項を明確にすると、従業員の意識向上につながります。
5-2. 定期的な研修の実施
パワーハラスメントの認識を深めるために、全従業員を対象とした研修を定期的に実施することが求められます。研修のポイントは以下の通りです。
- パワーハラスメントの定義と事例紹介
- 適切な指導とハラスメントの境界線
- 被害者・加害者・第三者の立場からの対応策
- 職場での円滑なコミュニケーション方法
5-3. モニタリングと評価
企業がパワーハラスメントを防ぐためには、定期的な職場環境調査や従業員の意識調査を行い、必要に応じて改善策を講じることが重要です。アンケートやヒアリングを通じて、職場の実態を把握し、ハラスメントが発生しにくい環境づくりを進めましょう。
6. まとめ
職場におけるパワーハラスメントは、個人だけでなく企業全体の健全な成長を妨げる深刻な問題です。企業は法的義務を果たすだけでなく、従業員が安心して働ける環境を整備することが求められます。
本記事で紹介した防止策や研修の実施を通じて、パワーハラスメントのない職場を目指しましょう。
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