ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代社会では、一度の教育だけでは対応できなくなっています。そこで注目されているのが「リカレント教育」です。この記事では、リカレント教育の基本概念から具体的な実践方法、支援制度まで、企業担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
1. リカレント教育の基本概念
まずはリカレント教育とは何か、その定義と必要性から見ていきましょう。
1-1. リカレント教育の定義
政府広報オンラインではリカレント教育を以下のように定義しています。
(recurrent)」とは、「繰り返す」「循環する」という意味で、リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ、社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも呼ばれます。
引用:政府広報オンライン_「学び」に遅すぎはない! 社会人の学び直し「リカレント教育」_https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202108/1.html
上記のようにリカレント教育とは、学校教育を終えた後も、社会人が生涯にわたって学び続けることを指します。この教育の概念は、必要に応じて就労と学習を繰り返すことに重点を置いており、個人のキャリア形成やスキルアップに寄与します。
1-2. 社会環境の変化とリカレント教育の必要性

近年、リカレント教育が注目される背景には、以下のような社会的な変化があります。
- 雇用の流動化: 非正規雇用の増加や転職の一般化により、従来の「終身雇用」の概念が崩れつつあります。これに伴い、個人のスキルや知識のアップデートが重要視されています。一つの企業に長く勤める時代から、複数の企業やプロジェクトで活躍する時代へと移行する中で、自らの市場価値を高めるスキル習得が不可欠になっています。
- 技術革新: AIやIoTなどの先端技術の発展により、求められるスキルが急速に変化しています。リカレント教育を通じて、最新の知識や技術を習得することが求められています。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に伴い、従来の業務スキルだけでは対応できないケースが増えています。
- 人生100年時代: 人生が長くなる中で、キャリアの選択肢を広げるために、継続的な学びが必要とされています。リカレント教育は、専門性を深めたり、新しいスキルを習得したりするための重要な手段です。一つの専門分野だけでなく、複数の分野を横断するT型人材やπ型人材の重要性も高まっています。
1-3. 類似概念との違い
リカレント教育と混同されがちな用語として「リスキリング」と「生涯学習」があります。それぞれの違いを理解することで、リカレント教育の位置づけが明確になります。それぞれの概念の特徴は以下の通りです。
- リスキリング:企業主導で従業員に新しいスキルを習得させる取り組み
- リカレント教育:個人が主体となって自発的に学ぶ取り組み
- 生涯学習:職業能力だけでなく、趣味や教養も含めた幅広い学び
2. リカレント教育の具体的な形態
次にリカレント教育は具体的にどのような形で実施されているのかを見ていきましょう。
2-1. 大学・大学院の社会人プログラム
多くの大学や大学院では、社会人向けの特別プログラムを提供しています。夜間や週末に授業を設定したり、オンライン受講を可能にしたりと、働きながら学べる環境が整っています。
例えば、早稲田大学ビジネススクールや法政大学ビジネススクールなどのMBAプログラムでは、実務経験を持つ社会人を対象に高度な経営知識を学ぶ機会を提供しています。これらのプログラムは、キャリアアップやマネジメント能力の向上を目指す方に適しています。
2-2. 専門的な研修・資格取得
大学・大学院以外にも、リカレント教育の場は広がっています。特定のスキルや資格取得に特化した民間の研修プログラムも、リカレント教育の一形態です。IT分野、マーケティング、財務・会計など、業界や職種に応じた専門的な講座が提供されています。
これらの研修は比較的短期間で集中的に学べるため、特定のスキルを早急に習得したい場合に適しています。また、資格取得を通じて客観的な評価を得られる点も魅力です。
2-3. オンライン学習プラットフォーム
デジタル技術の発展により、場所や時間を選ばない学習環境も充実しています。Coursera、Udemy、LinkedIn Learningなどのオンライン学習プラットフォームは、時間や場所を問わず学べる環境を提供しています。最新のテクノロジーやビジネストレンドに関する講座も充実しており、自分のペースで学習を進められます。
これらのプラットフォームは、コスト効率が高く、多様な学習内容から選べるため、企業の教育担当者にとっても貴重なリソースとなっています。
3. リカレント教育の阻害要因と解決策
リカレント教育の重要性が理解されつつも、実際に取り組む上ではいくつかの障壁が存在します。文部科学省の調査結果をもとに、主にリカレント教育の阻害要因と解決策を見ていきましょう。
3-1. リカレント教育の主な阻害要因

文部科学省の「リカレント教育の社会実装に向けた調査研究・普及啓発パッケージ事業 報告書」によると、リカレント教育の主な阻害要因は以下の通りです。
- 現在の業務に役立つイメージが持てない(26.6%)
- 勤務時間外で学習する意欲が持てない・続かない(23.9%)
- 勤務先での昇進や昇給、評価には影響がない(21.6%)
- 効率的な学び方がわからない(16.0%)
- 今後どのような知識・スキルを身につけるべきか不明(15.1%)
参照:文部科学省「リカレント教育の社会実装に向けた調査研究・普及啓発パッケージ事業 報告書」_https://www.mext.go.jp/content/20240426-mxt_syogai03-000026209_1.pdf
3-2. 企業としての対応策
上述した阻害要因に対して、企業としてはどのように対応すべきでしょうか。以下に解決策の例をご紹介します。
学習と業務の関連性の明確化
従業員が学習の意義を理解できるよう、業務との関連性を明確に示すことが重要です。キャリアパスと必要なスキルを可視化したり、学習成果を実際の業務で活用する機会を設けたりすることで、学習のモチベーションを高められます。
学習環境の整備
時間的制約は大きな阻害要因です。企業としては、学習時間を業務時間内に確保したり、フレックスタイム制を導入したりするなど、柔軟な働き方を支援することが効果的です。また、オンライン学習ツールの提供や社内ライブラリの充実など、物理的な学習環境の整備も重要です。
評価・報酬制度との連動
学習成果が評価や報酬に反映されないことも、モチベーション低下の要因となります。学び直しを評価する人事制度の導入や、スキル習得に応じたキャリアパスの提示など、学習と評価・報酬を連動させる仕組みづくりが必要です。
4. 支援制度の活用法
リカレント教育を推進するには様々なリソースが必要です。ここでは費用面の負担を軽減するための支援制度を紹介します。リカレント教育を推進するにあたり、様々な公的支援制度を活用することで、企業と従業員双方の負担を軽減できます。
4-1. 労働者向け支援制度
厚生労働省が提供する「教育訓練給付制度」は、社会人の学び直しを資金面から支援する制度です。また、雇用保険の「一般教育訓練給付金」では、対象講座の教育訓練経費が一部支給されます。従業員に対してこれらの制度の利用を促すことで、学び直しのハードルを下げることができます。
参照:厚生労働省「教育訓練給付制度」_https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
4-2. 企業向け支援制度
企業として従業員の教育を支援する場合、国の助成金制度を活用できます。企業が従業員の教育訓練を実施する際に活用できる「人材開発支援助成金」があります。これは、企業が実施する教育訓練の経費や賃金の一部を助成する制度です。
例えば、特定訓練コースでは、OJTとOff-JTを組み合わせた訓練の場合、経費助成として45%〜60%、賃金助成として760円/時が支給されます。中小企業の場合はさらに助成率が高くなります。
参照:厚生労働省「リカレント教育」_https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html
4-3. 自治体独自の支援制度
国の制度に加えて、地域ごとの支援も活用しましょう。多くの地方自治体では、地域の特性に合わせた独自のリカレント教育支援制度を設けています。地域の産業振興と連動した人材育成プログラムも増えていますので、本社や事業所がある地域の制度を確認してみることをおすすめします。
5. まとめ:リカレント教育を企業成長の原動力に
ここまで、リカレント教育の基本概念から具体的な実践方法、支援制度を解説してきました。変化の激しい現代ビジネス環境において、リカレント教育は個人のキャリア発展だけでなく、企業の持続的成長にとっても不可欠な要素となっています。従業員の学び直しを支援することで、組織全体の創造性や適応力が高まり、結果として企業競争力の向上につながります。
5-1. 「Skill Studio」で最適な研修プログラムを見つけよう
リカレント教育を効果的に進めるには、まず適切な学習プログラムを選ぶことが重要です。研修比較ポータルサイト「Skill Studio」では、様々な分野の研修プログラムを比較検討できます。企業のニーズに合った研修を見つけるだけでなく、資料の無料ダウンロードも可能ですので、リカレント教育推進の第一歩として、ぜひご活用ください。
研修比較ポータルサイト「Skill Studio」
