近年、多くの企業が人材の採用と同様に、リテンション(従業員の定着)に注目しています。採用コストの高騰や人材不足が続く中、一度採用した優秀な人材をいかに長く会社に留めるかは重要な経営課題です。本記事では、人事におけるリテンションの意味や目的、具体的な施策例、そして成功のポイントについて詳しく解説します。
1. リテンションの定義と重要性

リテンション(Retention)とは、直訳すると「保持」「維持」を意味し、人事の文脈では「従業員の定着」や「人材の維持」を指します。企業が採用した人材、特に優秀な人材や戦力となる従業員が長期にわたって会社に留まり続ける状態や、そのための取り組みを表します。
昨今の人材市場では、人手不足や人材獲得競争の激化により、新たな人材を採用するコストが年々上昇しています。そのため、すでに雇用している人材の離職を防ぎ、長く活躍してもらうことが企業にとって重要な経営戦略となっています。
1-1. リテンションの基本概念
リテンションは単なる「退職防止」ではなく、従業員が持続的にモチベーションを保ちながら成長し、企業に貢献し続けられる環境づくりを意味します。従業員が自発的に「この会社で働き続けたい」と思える状態を作ることが本質的な目標です。この考え方は、企業が優秀な人材を長期的に確保し、組織の安定性を高めるために不可欠です。
人材の流出は以下のような損失をもたらします。
人材が流出することによる損失
- 業務知識やノウハウの喪失
- チームワークやプロジェクトの中断
- 顧客関係の断絶
- 採用・教育コストの発生
- 残された従業員へのモチベーション低下
1-2. リテンション率の計算方法
リテンション率は以下の式で計算できます。
リテンション率(%) = (期末の従業員数 ÷ 期首の従業員数) × 100
例えば、年初に100人いた従業員が年末に90人になった場合、そのリテンション率は90%となります。業界や企業規模によって適正なリテンション率は異なりますが、一般的に高いリテンション率を維持することが望ましいとされています。
また、より詳細な分析をするために、以下のような指標も活用されます。
- 自発的離職率(会社都合ではなく、従業員の意思による退職の割合)
- 勤続年数別離職率(入社1年未満、1-3年、3-5年など)
- 部門・職種別離職率
- ハイパフォーマー(高業績者)の離職率
2. リテンション施策のメリット

リテンション施策を実施すると企業にとって様々なメリットがあります。ここではリテンション施策によるメリットを見ていきましょう。
2-1. 採用コストの削減
新規採用には、求人広告費、採用活動の人的コスト、オンボーディングコストなど、多くの費用がかかります。一般的に、新入社員の採用コストは年収の20〜30%とも言われており、優秀な人材ほどこのコストは高くなる傾向があります。
具体的な採用コストの内訳
- 求人広告・採用サイト掲載費
- 採用担当者の人件費
- 面接官の時間的コスト
- 適性検査などの外部サービス費用
- オンボーディング・研修費用
- 生産性が上がるまでの非効率性
そのため、既存の人材を維持することで、これらのコストを大幅に削減できます。
2-2. 組織パフォーマンスの向上
長く働いている社員は業務知識や経験が豊富で、業務効率も高くなります。また、社内の人間関係やコミュニケーションが確立されているため、チームワークも円滑に進みます。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、生産性の高い職場環境が実現できます。
組織パフォーマンス向上の具体的例
- 業務の習熟度向上による生産性アップ
- 社内ネットワークを活用した効率的な問題解決
- 社内システムや暗黙知への精通
- チーム内の信頼関係構築によるコラボレーション強化
2-3. 企業文化・ナレッジの継承
長期勤続の社員は企業文化や暗黙知を次世代に伝える重要な役割を担います。頻繁な人材の入れ替わりがあると、こうした無形の資産が失われ、企業の競争力低下につながることがあります。
企業文化の担い手としての長期勤続社員の役割
- 企業理念や価値観の体現者
- 新入社員へのメンターやロールモデル
- 過去の成功体験や失敗経験の伝承者
- 組織の歴史や背景を知る「生きた辞書」
2-4. 顧客満足度の向上
特に顧客接点のある部門では、従業員の定着が顧客との信頼関係構築に直結します。長期にわたり同じ担当者が対応することで、顧客のニーズをより深く理解し、質の高いサービスを提供できるようになります。
顧客にとっての担当者継続のメリット
- 担当者変更による説明の手間の削減
- 長期的な関係構築による深い理解
- 過去の経緯を踏まえた適切な提案
- 信頼関係に基づくスムーズな取引
3. 効果的なリテンション施策の例

リテンション向上のためには、様々な施策が考えられます。ここでは代表的なリテンション施策例をご紹介します。
3-1. 適切な評価・報酬制度の構築
従業員のパフォーマンスを正当に評価し、それに見合った報酬を提供することは、リテンションの基本です。定期的な昇給や市場価値に合わせた給与水準の見直し、業績連動型のボーナス制度などが効果的です。
- 市場価値に基づく給与テーブルの設計
- 明確な評価基準と透明性のある評価プロセス
- 業績連動型インセンティブ制度
- スキル・資格に応じた手当制度
- 長期インセンティブ(ストックオプションなど)
- 福利厚生の充実(住宅手当、保険、年金制度など)
3-2. キャリア開発・成長機会の提供
多くの従業員は自己成長やキャリアアップを重視しています。キャリア開発や成長機会を提供するには、以下のような取り組みが効果的です。
- 多様な研修プログラム:技術スキル、ビジネススキル、リーダーシップ開発など、体系的な研修体系の構築
- メンター制度:先輩社員からのサポートやアドバイスを受ける機会の提供
- 資格取得支援:業務関連資格の取得費用補助や学習時間の確保
- キャリアパスの明示:将来のキャリアプランが描ける道筋の提示
- 社内公募制度:異動や昇進の機会を公平に提供する仕組み
- ジョブローテーション:さまざまな部門を経験できる人材育成制度
- 副業・兼業の許可:外部での経験を通じたスキル向上の機会提供
3-3. 働きやすい職場環境の整備
ワークライフバランスを重視する施策も重要です。
- 柔軟な勤務体制:フレックスタイム制度、時短勤務、選択的週休3日制など
- リモートワークの導入:場所に縛られない働き方の実現
- 有給休暇の取得促進:計画的な休暇取得を推奨する文化づくり
- 育児・介護支援制度:育児休業、介護休業の拡充、復帰後の支援
- 健康経営の推進:健康診断の充実、メンタルヘルスケア、ストレスチェック
- オフィス環境の改善:快適な作業空間、休憩スペースの確保
- コミュニケーションツールの整備:効率的な情報共有と過剰な会議の削減
3-4. エンゲージメント向上施策
従業員と組織の間に強い結びつきを作ることで定着率が高まります。
- 1on1ミーティング:上司と部下の定期的な対話の場の設定
- 社内イベント:部門を超えた交流機会の創出
- チームビルディング活動:信頼関係構築のための取り組み
- 従業員の声を聞く仕組み:定期的なサーベイやフィードバックの収集
- 提案制度:業務改善や新規事業のアイデアを提案できる仕組み
- 社内表彰制度:成果や貢献に対する適切な認知と称賛
- 経営情報の共有:会社の方向性や業績の透明な共有
3-5. オンボーディングの充実
入社初期の体験は、その後の定着に大きく影響します。効果的なオンボーディングプログラムには以下のような要素が含まれます。
- 体系的な研修計画:業務知識やスキルの習得を支援
- 会社の理念や文化の浸透:企業のDNAを理解する機会の提供
- バディ・メンター制度:先輩社員によるサポート体制
- 30/60/90日プラン:入社後の明確な目標設定
- 定期的なフィードバック:適応状況の確認と軌道修正
- 経営層との交流機会:会社のビジョンや期待を直接伝える場
- 早期の成功体験の創出:自信と帰属意識を育む小さな成功
4. リテンション施策を成功させるためのポイント

ここでは、リテンション施策を効果的に実施するための重要なポイントをご紹介します。
4-1. データに基づいた施策立案
効果的なリテンション戦略を立てるには、まず自社の現状を正確に把握することが大切です。以下のようなデータを収集することで、自社の現状を把握することができます。
現状把握のためのデータ例
- 退職理由の分析:退職面談や退職者アンケートを通じた真因の把握
- リテンション率の詳細分析:部門別、職種別、年齢別、勤続年数別の分析
- 従業員満足度調査:定期的なエンゲージメントサーベイの実施
- ステイインタビュー:長期勤続者への満足要因のヒアリング
- ベンチマーク分析:業界平均や競合他社との比較
- 予測分析:離職リスクの高い従業員の予測モデル構築
これらのデータをもとに、自社特有の課題を特定し、ターゲットを絞った施策を展開しましょう。
4-2. 個人のニーズに合わせたアプローチ
従業員のライフステージや価値観は多様化しています。年齢や役職だけでなく、個人のキャリア志向や生活状況に合わせた柔軟な対応が求められます。例えば、以下のような例が挙げられます。
ニーズに合わせたアプローチ例
- 世代別の特性理解:Z世代、ミレニアル世代、X世代など各世代の価値観の違い
- 個別キャリアプラン:一人ひとりの強みや志向に合わせたキャリア開発
- ライフステージに応じた支援:結婚、出産、子育て、介護など各ステージでの支援
- 多様な働き方の選択肢:フルタイム、時短、リモート、ジョブシェアなど
- パーソナライズされた福利厚生:カフェテリアプランなど選択型の福利厚生制度
4-3. 経営層のコミットメント
リテンション施策は、一時的なイベントではなく、企業文化として定着させることが重要です。そのためには経営層の明確なコミットメントが不可欠です。経営層のコミットメントの具体例として以下が挙げられます。
経営層のコミットメントの具体例
- 経営課題としての位置づけ:リテンション改善を経営KPIに設定
- 経営層からのメッセージ発信:従業員の価値を認めるトップメッセージ
- 予算・リソースの確保:人材育成や環境整備への十分な投資
- 率先垂範:経営層自らが理想的な行動を示す
- 定期的なレビュー:リテンション関連の指標を経営会議で確認
- 長期的視点:短期的な利益よりも人材への投資を優先する姿勢
4-4. 上司・マネージャーの育成
直属の上司との関係は、従業員の定着に大きな影響を与えます。リーダーシップ開発や1on1ミーティングのスキルなど、マネージャー教育に投資することが重要です。
上司・マネージャーの育成例
- マネジメント研修の実施:部下育成、評価、フィードバックなどのスキル向上
- コーチングスキルの習得:部下の成長を支援するコーチング手法の習得
- 1on1ミーティングの定着:効果的な1on1の実施方法とフォローアップ
- マネージャー評価の見直し:部下の育成や定着も評価指標に含める
- マネージャー同士の情報共有:好事例の共有や相互学習の機会創出
- 人材マネジメントガイドライン:標準的なマネジメント手法の整備
4-5. 継続的な改善とコミュニケーション
リテンション施策の効果を定期的に測定し、PDCAサイクルを回すことで継続的に改善していくことが大切です。また、施策の目的や内容を従業員に丁寧に説明し、フィードバックを求めることも重要です。
継続的な改善実施のポイント
- 定期的な効果測定:リテンション率や満足度の変化をモニタリング
- パルスサーベイの活用:短いアンケートを頻繁に実施して状況把握
- 改善サイクルの確立:結果に基づく施策の修正と強化
- 透明なコミュニケーション:施策の目的や期待する効果の共有
- 従業員参加型の施策設計:現場の声を反映した制度設計
- 成功事例の共有:効果のあった取り組みの組織内共有
5. まとめ:成功するリテンション戦略のために

リテンションの向上は、単なるコスト削減策ではなく、企業の持続的な成長と競争力強化につながる重要な経営戦略です。以下のポイントを押さえて、効果的なリテンション戦略を展開しましょう。
- 現状把握から始める:自社のリテンション状況を正確に分析し、課題を特定する
- 包括的アプローチ:報酬、成長機会、職場環境、エンゲージメントなど複数の側面から施策を検討
- 個別最適化:従業員の多様なニーズを理解し、柔軟に対応する
- 経営課題として位置づけ:経営層のコミットメントと十分なリソース配分を確保
- マネージャーの育成:現場リーダーのマネジメント能力向上に投資
- 継続的改善:効果測定と施策の見直しを繰り返し行う
- 文化として定着:一時的な施策ではなく、企業文化として根付かせる
効果的なリテンション戦略の実行には、人事部門だけでなく、経営層や現場マネージャーを含めた組織全体の取り組みが不可欠です。また、単発の施策ではなく、組織文化として定着させることが長期的な成功につながります。
5-1. 人材育成・研修プログラムで課題解決をお考えの企業様へ
リテンション施策として、体系的な人材育成や研修プログラムの導入をご検討の企業様は、研修比較ポータルサイト「Skill Studio」をぜひご活用ください。Skill Studioでは、リーダーシップ開発、キャリア開発、エンゲージメント向上など、リテンション強化に役立つ様々な研修プログラムの比較・検討が可能です。
以下のような研修プログラムが効果的です。
- マネージャー向けリーダーシップ研修:1on1ミーティングの実施方法、コーチングスキル、フィードバック手法
- キャリア開発ワークショップ:自己のキャリアを主体的に考える機会の提供
- エンゲージメント向上研修:組織への帰属意識や仕事への熱意を高める方法
- コミュニケーションスキル研修:職場の人間関係構築に役立つスキル習得
貴社に最適な研修プログラムを効率よく見つけるお手伝いをいたします。まずは各研修会社の資料をダウンロードして、詳細をご確認ください。リテンション向上に向けた第一歩を、Skill Studioと共に踏み出しましょう。
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