企業が人事制度を整備する上で重要な「等級制度」。この記事では、社員のキャリアパスや給与体系の基盤となるこの制度について、基本的な概念から実践的な設計方法まで解説します。
1. 等級制度とは?定義と基本概念
等級制度とは、企業内で社員の職務や能力、成果などを評価し、階層化・序列化する人事制度の一つです。社員の役割や責任、求められる能力レベルを明確化し、それに応じて処遇(給与・賞与・福利厚生など)を決定するための基盤となります。
多くの企業では、社員の成長やキャリア形成を促進するとともに、公平で納得性の高い評価・処遇を実現するために等級制度を導入しています。
1-1. 等級制度の構成要素

一般的な等級制度は、以下の要素から構成されています。
- 等級区分: 職能資格や役割等級などの階層区分
- 昇格・降格基準: 上位等級への昇格や下位等級への降格の条件
- 処遇連動: 等級に応じた基本給や賞与、手当などの決定方法
- 評価制度: 等級判定の基礎となる能力評価や業績評価の仕組み
2. 等級制度の目的と企業経営における意義
等級制度は、単なる給与決定の仕組みではなく、企業経営における人材マネジメントの根幹を担っています。ここでは等級制度の目的と企業経営における意義をみていきましょう。
2-1. 等級制度の主な目的
等級制度の導入目的として、主に以下の点が挙げられます。
- 人材育成の促進: 次の等級に必要な能力や行動を明示することで、社員の成長意欲を喚起
- 公平な処遇の実現: 職務や能力に応じた適切な処遇を実現し、社員の納得性を高める
- 組織力の強化: 適材適所の人員配置を実現し、組織全体の生産性向上につなげる
- 人件費の適正管理: 等級に基づいた給与体系により人件費を計画的に管理
2-2. 企業経営における意義
等級制度は企業経営において以下のような重要な意義を持っています。
- 戦略実現のための組織能力強化: 経営戦略の実現に必要な人材・組織能力を明確化し、計画的に育成・強化できます
- 経営資源の最適配分: 等級制度により人材の能力・スキルが可視化され、戦略上重要なポジションに適切な人材を配置することで、限られた人的資源を効果的に活用できます
- 組織文化の醸成: 評価・報酬の仕組みを通じて、企業が大切にする価値観や行動様式を組織全体に浸透させることができます
- 持続的成長の基盤構築: 中長期的な人材パイプラインを構築し、企業の持続的成長を支える人材基盤を整えることができます
- 環境変化への対応力強化: 経営環境の変化に応じて人材要件や評価基準を柔軟に変更することで、企業の環境適応力を高められます
経営ビジョンや企業理念と整合性のとれた等級制度を設計・運用することで、人材マネジメントと経営戦略を効果的に連動させることができるのです。
3. 等級制度の種類とメリット・デメリット
等級制度は大きく分けて3種類あります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解し、自社に最適な制度を選択することが重要です。
3-1. 職能資格制度(能力主義)
職能資格制度は、社員の保有する能力や知識、スキルに基づいて等級を決定する制度です。日本企業で最も伝統的に採用されてきた制度で、長期的な人材育成に適しています。
- 長期的な育成視点での人材開発が可能
- 安定した雇用・処遇を実現しやすい
- 将来必要となる能力開発を促進できる
- 実際の職務や成果と能力評価が乖離する場合がある
- 年功序列化しやすく、若手の昇格が遅れがち
- 能力評価の客観性確保が難しい
3-2. 職務等級制度(職務主義)
職務等級制度は、担当する職務(ジョブ)の価値や難易度、責任の大きさに基づいて等級を決定する制度です。欧米企業で主流の制度であり、日本でもジョブ型雇用の広がりとともに注目されています。
- 職務と処遇の関係が明確で分かりやすい
- 市場価値に応じた処遇設定が可能
- 客観的評価がしやすい
- 職務変更がない限り昇格できない
- 柔軟な人材活用が難しくなる場合がある
- 職務の細分化・固定化による組織の硬直化
3-3. 役割等級制度(役割主義)
役割等級制度は、組織における役割や期待される成果、責任の範囲に基づいて等級を決定する制度です。職能資格制度と職務等級制度の良い部分を組み合わせた、日本企業に適した制度として近年普及しています。
- 職能と職務のバランスがとれている
- 経営環境の変化に対応しやすい
- 成果・役割に応じた公平な処遇が実現しやすい
- 役割定義の曖昧さが残りやすい
- 制度設計・運用の複雑さがある
- 評価の公平性・客観性の担保が難しい
4. 等級制度の作り方:効果的な設計のポイント
等級制度を新たに導入する、または既存の制度を見直す場合、以下のステップに沿って検討することをお勧めします。
- Step1自社の経営戦略・人材戦略の明確化
等級制度は経営戦略や人材戦略と密接に関連しています。まずは以下の点を明確にしましょう。
- 経営ビジョンや中長期経営計画
- 求める人材像や行動指針
- 事業環境や市場動向
- 組織文化や社員の価値観
- Step2等級制度の種類・特徴を決定
自社の状況や目指す方向性に合わせて、採用する等級制度の種類を決定します。
- 人材育成重視なら「職能資格制度」
- 専門性や市場価値重視なら「職務等級制度」
- バランス重視なら「役割等級制度」
- あるいはこれらを組み合わせたハイブリッド型
- Step3等級数・等級定義の設計
組織規模や階層に応じて適切な等級数を設定し、各等級の定義・要件を明確にします。
- 一般的には5〜10段階程度の等級数が多い
- 各等級で求められる能力・行動・成果を明確に定義
- 昇格要件・滞留年数などのルールを設定
- Step4評価制度・処遇制度との連動設計
等級制度は評価制度や処遇制度と連動させて効果を発揮します。
- 等級判定のための評価指標・評価方法の設定
- 等級に応じた基本給・賞与テーブルの設計
- 昇格・降格時の処遇変更ルールの整備
- Step5制度浸透・運用体制の整備
制度設計だけでなく、浸透・運用のための体制も重要です。
- 管理職への研修・説明会の実施
- 社員向けの制度説明資料の作成
- 人事部門の運用体制整備
- 定期的な制度レビュー・改善の仕組み構築
5. 等級制度の種類ごとの例
実際の等級制度がどのように設計されるのか、それぞれの種類ごとに具体例を見てみましょう。
職能資格制度の例
職能資格制度では、習得した知識やスキル、業務遂行能力に応じて等級が設定されます。

この制度では、能力開発の段階に応じて昇格していくため、長期的な人材育成に適しています。ただし、評価の客観性確保が課題となります。
職務等級制度の例
職務等級制度では、担当する職務(ジョブ)の難易度や責任の大きさに応じて等級が設定されます。

職務等級制度では、「同一職務同一賃金」の原則が適用されやすく、市場価値に応じた処遇設定が可能です。ただし、職務変更がない限り昇格できないという制約があります。
役割等級制度の例
役割等級制度では、組織における役割期待や成果責任の大きさに応じて等級が設定されます。

役割等級制度は、職能資格制度と職務等級制度の良い部分を組み合わせており、日本企業の文化に適合しやすい特徴があります。ただし、役割定義の曖昧さが残りやすいという課題もあります。
6. まとめ:成功する等級制度構築のために
等級制度は、企業の人材マネジメント戦略の根幹を成す重要な仕組みです。効果的な等級制度を構築・運用するために、以下のポイントを押さえましょう。
- 経営戦略との整合性:企業の目指す方向性や価値観と整合した制度設計を行う
- シンプルで分かりやすい制度:社員が理解・納得できる明確な制度を心がける
- 定期的な見直し:環境変化や社員ニーズに応じて柔軟に制度改定を行う
- 公平な運用:評価の客観性・公平性を担保する仕組みを整える
- 透明性の確保:制度内容や運用ルールを社員に明確に伝える
等級制度の導入・改定は、社員のモチベーションや組織文化に大きな影響を与えます。自社の状況に最適な制度を、慎重かつ戦略的に設計・運用することが成功の鍵となります。
6-1. 人材育成をサポートする研修比較ポータルサイト「Skill Studio」のご紹介
等級制度の運用において、社員の能力開発や人材育成は欠かせない要素です。「Skill Studio」では、様々な研修プログラムを比較・検討いただけます。等級制度に連動した階層別研修、スキル別研修など、御社のニーズに合った最適な研修プログラムをお探しいただけます。
研修導入をご検討の際は、ぜひ「Skill Studio」の資料をダウンロードしてご覧ください。
▼研修比較ポータルサイト「SKill Studio」はこちら
